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・弁慶×九郎のような九郎×弁慶のようなどっちつかずな関係です。
・将臣→九郎です。
・ハロウィンネタで、無印です。
・すんごく短いですが、それでも宜しければ続きからどぞ。
「Trick or Treat!」
昼過ぎになって現れた幼馴染みに、望美はぱちくりと目を瞬かせた。
「はい」
望美は目を丸くしたままスカートのポケットから何やら取り出すと、それをそのまま突き出されていた将臣の手の平に乗せた。えぇ!、と途端に将臣の非難の声が上がる。
「何で金平糖なんか持ち歩いてんだよお前!」
金平糖をがりがりと噛み砕きながら眉を顰めた将臣に、何でって、と望美は小首を傾げた。と、その後ろから、将臣!、と明るい声が掛かった。
揃ってそちらを見遣れば、破顔して駆けてくる青年が目に入った。
「九郎!」
「久し振りだな!息災か?」
「当たり前だろ。お前こそ元気だったか?」
あぁ、と微笑する九郎に将臣も相好を崩した。望美も眉を下げている。
はねっ毛をふわふわと揺らしながら、今度はいつまでいられるんだ?、と嬉しそうな九郎に、将臣もにっこりと笑い返した。
「おや、珍しい顔がいますね」
京邸の庭先からいきなり現れた珍客に対して笑顔を向ける御曹司の後ろから、またもや声が上がった。ひょっこりと九郎の背から顔を出したのは柔和な顔の軍師殿。
「こんにちわ、将臣くん」
九郎の脇に控えた黒衣の姿に、将臣は、よぉ、とだけ手を挙げた。面倒なのに見付かった、と思わず笑みが歪んだ。これでは悪戯が出来ないではないか。
にこにこと愛想を振り撒いてはいるが、あからさまに警戒しているのが気配で分かる。少なからず向けられている敵意。それが分からない訳がない。
しかし、目の前には久し振りの再会を喜んでくれている想い人の可愛い笑顔。ここで引いたら何の為に身分を隠して逢いに来たのか分からない。
「九郎!」
ざっ、と差し出した手の平に、九郎が望美同様瞬く。何だ?、と首を傾げる九郎に、将臣は半ば使命を果たすかのような心持ちで口を開いた。
「Trick or Treat!!」
気迫に負けてたじろぐ九郎に、言ってやったぞ!、と将臣は小さな達成感に空いた手の平をがっつり握り締めた。
望美は失敗した(一応社交辞令で言ってはみた)が、ハロウィーンなんて行事、この時代の人間が知っている訳がないので必ず成功する筈だ。否、しない訳がない!
(さぁ!悪戯させて貰おうか、九郎…!)
困り顔の九郎に、思わず自分の顔に人の悪い笑みが浮かんだのを感じた。
「九郎、これを」
「弁慶?」
へ?、と将臣は目を丸くした。にこやかに彼の軍師が九郎に差し出したのは、薄桃色の金平糖。将臣はぎろりと望美を睨みつけた。
「お前か望美!」
俺の恋路を邪魔しやがって、と眦を吊り上げる将臣に、望美はほんわかと笑い返した。
「将臣くんだけじゃないって事よ」
ほほほ、と笑う望美の手には、何処から調達したのか獣耳付きのカチューシャ。
既にバレて失敗済みです、と視線を逸らす姿に、あぁ…、と将臣も肩を落とした。お前もか、と。
「将臣くんは、お菓子が欲しいと言ったんですよ、九郎」
「そうだったのか。なんだ、それならそうと言えば良いじゃないか」
ほら、と弁慶から受け取った金平糖を手の平にころころと乗せた九郎の満面の笑みに、将臣はがっくりと肩を落とした。どうした、と首を傾げる九郎の横で、ふふ、と響く微かな笑い声。
「本当に、わざわざお菓子を貰いに来るだけだなんて…ご苦労様ですね、将臣くん」
花のように笑う軍師殿の顔から目を逸らし、唯甘い金平糖を噛み砕く事しか将臣には出来なかった。
詰めの甘い神子と還内府殿。
神子のカチューシャは多分本物です。本物の毛皮です。漢気に溢れちゃってます。
考える事が同じとか、この幼馴染コンビはどうしようもないですね。
え?うちの神子が特別どうしようもないって?
いやあ、仕方ないですね。
伊達に幼馴染やってませんしね、弁慶も(笑)
以下、小噺↓
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朝食の仕度を手伝っていると、譲が、そう言えば、と南瓜を見て笑った。
「今日はハロウィンだったっけ」
隣で鍋を見ていた弁慶はこてんと小首を傾げた。
「はろいん?」
不思議そうな弁慶に、譲は、えぇ、と目を細めた。
南瓜を包丁で真っ二つにしながら、何かを思い浮かべるように輪切りにした南瓜をまな板の上で転がす譲の表情は楽しげだ。
「収穫祭と慰霊祭が混ざったような、外国の行事なんです。皆お化けなんかの仮装をして、『Trick or Treat』お菓子をくれなきゃ悪戯するぞって言いながら家々を回るんです」
「へぇ。楽しそうですね」
「えぇ。子供の頃、よく兄さんと先輩と魔女や狼男の格好をしたっけ…懐かしいなぁ」
「三人とも、さぞ可愛らしかったんでしょうね」
くすくすと譲の様子に微笑すると、鍋に切った南瓜を放り込みながら、譲が、そうだ、と破顔した。良いものがあると戸棚を覗き込む姿に首を傾げる。
「弁慶さん、これ良かったらどうぞ」
差し出されたのは萌黄色の料紙に包まれた沢山の砂糖菓子。淡い染色が可愛らしいそれを一つ摘まんだ弁慶に、譲がにっこりと笑った。
「金平糖、もどきです。試しに作ってみたんですけど、上手く出来ているでしょう?」
「えぇ…譲くんは本当に器用ですね。早速一つ頂いても良いですか?」
どうぞ、と嬉しそうな譲に頷いてぽんと口に放り込めば途端に砂糖の柔らかい甘みが口の中に広がった。一度舌の上で転がした後、奥歯でかこんと噛み砕く。
「先輩はこういう行事が大好きだから、今日はお菓子を持ち歩いていた方が良いですよ。…はい、これは九郎さん用です」
直ぐに溶けてなくなってしまった金平糖を残念に思いながらも、手渡された小さな紙包みに弁慶は頷いた。もう一粒、と早速自分の分に手を伸ばす。素直に美味しいと口にすると、譲は年相応のはにかんだ笑顔で頬を掻いた。
「気に入って貰えて良かった。無くなったら言って下さい。まだ沢山あるんです」
「ふふ、それは嬉しい事を訊きました。僕の分は直ぐに無くなってしまいそうですから」
「先輩もですけれど、兄さんあたり九郎さんをからかいに来る気がしますから、九郎さんに注意するよう伝えて置いて下さい。兄さん、こういう事には大人げないから」
苦笑する譲にやんわりと微笑み返して弁慶は落ちかけた黒衣の裾を頭の上へ引き上げた。気付かれないように小さく嘆息。
(譲くんがいてくれて良かった)
きっと我らが神子は絶対に教えてはくれなかっただろう。寧ろ引っ掛ける側になっていたに違いない。
九郎はもう起きたかな、と思考を巡らせた弁慶の耳に、おはようございます先輩、という譲の朗らかな挨拶が聞こえた。