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・将臣が平家に拾われてちょっと経ってからの話。
・重盛病死後、惟盛は平家内で不安定な立場になっています。
・当家の将臣は基本弟とか子供属性に弱く出来ております。
・ある意味ベタベタしておりますが、それでも宜しければ続きからどぞ。
若い、と初めは思った。
お祖父様が拾ったという青年と初めて顔を合わせた時、私は確かに父上に似ているとは思ったが、お祖父様達が言う程ではないと思った。
そう、私は父上の若い頃等知らなかったから。
子供なのだから当たり前の話。父上は絵姿すら遺しては下さらなかったかったから、知る術もない。
だから、唯々彼には若いと思う以外に何の感傷も湧かなかった。
「惟盛?」
しかし、時は残酷だった。
育ち盛りの彼は、平家の加護の中伸びやかに成長し、元よりしっかりした体躯も、立派な大人の男のものへと変わっていった。
「このような寂れた場所にお越しになられてはなりません。御身が穢れてしまわれます」
すらりと伸びた長身。
彼は母屋の離れにある私の房室へといきなりやってきて、諌める私の事等お構い無しに勝手に湯を沸かし始めた。
火鉢の中、赤くなった炭の上に鉄瓶を掛け、懐から一対の茶碗と薬包らしきものを取り出す。
その余りの身勝手さにほとほと呆れて嘆息すると、彼はにんまりと笑った。
「良いもん飲ませてやるよ」
「良いもの、ですか」
尋ねた私に唯笑い、薬包を開く彼に私は髪を掻き上げた。調子が崩れる。
拾われて間もない頃ならともかく、既に平家の中枢の一人となった彼には、自分が何をしても良くて何をしてはいけないのかを理解しているはずだ。
直系とは言え、私は平家の中では異端。
父上という保護を失い、お祖父様の直孫という肩書きだけを頼りに細々と生きている。
折角お祖父様に可愛がられているというのに、私の所になど来てしまったら、後で叱責されはすまいか。
私を疎ましいと思っている筆頭は、実の所お祖父様その人なのだから…。
「おっけー、完成」
渡された茶碗には並々と薄緑、いや菊のような色をしたものが淹れられていた。
鼻腔に届く薫りはやはり菊花茶のようでいて、しかしよくよく嗅いでみると薬湯のような匂いがする。
不思議そうに覗き込んでいると、彼は笑った。
「毒なんて入っていないから安心しろよ」
ぎくりと髪を揺らした私に苦笑が返る。
決して疑っていた訳ではないが、急な事に躊躇していたのは確かだ。
わざわざお祖父様の不興を自ら買いに来る人間などたかが知れている。彼はその物好きの一人で、いつも私を驚かせるような事をする。唯でさえ私は一応御曹司として育てられた。御曹司と言えば聞こえは良いが、その実体は世間知らずの何者でもない。
彼が町に下りて見聞きした事一つ一つは、例えどんなに当たり前の事でも私を驚かせた。
今回は何だろうか?
勧められるままに口を付けた。
「…甘い」
見た目はさらりとしているのに、口当たりはまろやかだった。
嚥下する寸前にほんのり咥内に甘い花の薫りが満ちる。知らず吐息を零せば、目の前の彼が嬉しそうに微笑んだ。
「美味いだろ。町で知り合いに分けて貰った時に、お前が好きそうな気がしたから。あ、これじい様には内緒な。あの人いい年して拗ねるからさ」
きょとんと顔を上げる。
「私の為?」
彼は是と返して椀の中を一口啜った。
「何と無く。経正達よりお前に必要な気がしたから」
「私に必要なもの、ですか?」
勿体ない、と零した私に、彼は唯笑った。そしてぎゅっと眉を顰めた。
「それにしても、これの苦さは半端ねぇな。後から来やがる」
「は?、いえ、大変甘くて美味しゅうございましたが…」
首を傾げた私に、彼は肩を竦めた。
「ほら見た事か。やっぱりお前に必要じゃねぇか」
「どういう事でございますか?」
「これは薬湯の一種なんだが、疲れてる奴が飲むとやたらと甘く感じるらしい。それとは逆に、あんまり疲れてねぇ奴が飲むと、後味に薬湯らしい苦味が残る」
俺は疲れてないらしい、と少々不満げな声の彼に、私は瞬いた。
疲れている――――私が?
否、そんな訳はない。平々凡々と生きるだけの私が疲れるはずなど……。
(………………)
顔を上げると、彼の姿が揺れた。面差しの良く似た――――あぁ、あれは父上だ。
髪も伸び、段々と精悍な顔付きになった彼は、私の知る父上に瓜二つだった。
ぽたりと手の甲に何かが落ちてきた。
彼が息を呑んだのが分かった。
「父上」
あるかなしかの声音で呟けば、ぽたりぽたりと間を置かずに零れ落ちて来た。それが自分の瞳から溢れたものだと気付くのに私は暫くかかった。
「惟盛?」
彼が困っている。彼を困らせている。
あぁ、私は疲れているのではない。これは病んでいるというのだ。
俯いた私の髪を、彼が恐る恐る撫でた。私の名前を呼んで、何度も撫でる。
「惟盛、どうした?」
気遣う声すら在りし日の父上にそっくりで、私はあっという間にその場に泣き崩れてしまった。
もう父上は、いらっしゃらないのに。そんな事、自分が一番分かっているのに。
「なぁ、惟盛」
彼の手が、そっと私を抱き寄せた。幼子を宥めるように、ぽんぽんと背を撫でる。
彼の方が年下で、慣れたといっても知る顔一つない中、心細い思いをしているだろうに、彼の腕の中にいると、何故だか酷く安堵する自分がいた。
本当に小さな童になったように、思わず私は彼の背に腕を縋らせた。すると彼は、一瞬驚いたかのように身を強張らせ、しかし直ぐに優しく背を撫でてくれた。
「まさおみ、どの」
「んー?」
「もう少しだけ…このまま抱いていて下さいませんか?」
頭上から振ってきた苦笑に父上の声を感じて、私はまたぽろぽろと涙を零した。
すると、彼は背中を撫でながら、何やら唄を唄い出した。それは少し前に彼に教えて貰った子守唄だった。
子守唄、と内心で苦笑する。確かに今の状態は子守をしているようなものだろう。
声の拍子に合わせて柔らかく撫でられる手は温かく、縋った彼自身も日なたのように優しい温もりに溢れていた。
「父上」
ぼんやりと、幼い頃に繋いだ父上の手の平の温かさを思い出した。
お祖父様達が、父上に似ていると繰り返し仰る度に、彼の心の何処かが凝り固まっていってしまっているのを私は知っている。知っているのに、結局同じように、その父上そっくりの面差しに縋ってしまった自分が、愚かで浅ましくて。
「なんだよ、惟盛?」
自分ではない者の代わりに返事をくれた彼が優し過ぎて、私は少し力を抜く。
それでも縋る腕は離せなかった。
泣き疲れて段々と薄らぐ意識の中、低く響く子守唄が印象的だった。
ゆっくりと打ち寄せては退いていく音に誘われるかのように、私はどんどん瞼を下ろした。
「――、……」
彼が笑った気がした。
今私は、何か言ったのだろうか?
優しい手の平の感触だけを残して、私はぱたりと瞼を閉じた。
18歳マジックな将臣くんが好きです。
今よりちょっと子供っぽいけどお兄ちゃん気質なのが良いです。
そんな将臣パパににきゅんきゅんしている惟盛が好きです(ずばーん)
成長するにつれ、段々と重盛パパに似てきて内心どうしたら良いか分からないんじゃないかなぁ、と。お祖父様達みたいにはきっと割り切れないんじゃないかなぁ。
21歳の今では「還内府」として生きていますが、拾われたばっかりの頃は「将臣」じゃなくて「重盛」って呼ばれる事に、将臣自体が複雑だったのでは?
惟盛はそれをなんとなく気付いていて、「父」と呼んで縋りたい時もあるのだけれども、そうすると「将臣」が傷付くんじゃないかと思って、言えないでいるんじゃないかなぁ。
そんな妄想話(笑)