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・経正と惟盛が怨霊になる前のお話。
・重盛病死後、惟盛は平家内で不安定な立場になっています。
・×と言うより経→←惟盛な関係です。
・報われない恋まっしぐらですが、それでも宜しければ続きからどぞ。
ひらりひらり飛ぶ蝶に手を伸ばした惟盛は、その手をいきなり掴まれた。
「惟盛殿」
苦く低く呟かれた自らの名に無表情を返す。
冷たい床に寝そべり脇息に片腕を預けていた惟盛の部屋は、いつも通り華やかに整っていた。
庭から摘んできたのだろう。傍らには花が束となって置いてあり、その傍を蝶が一羽舞っていた。
惟盛は掴まれた腕をやんわりと解いて小さく嘆息した。
「惟盛殿、この腕はどうしたのですか…っ」
静かに、しかし苦渋が染み込んだ声で経正が言う。惟盛はそんな経正からふいと顔を逸らすと、件の腕を薄紅の衣へと引っ込めた。そのままだんまりを通す。すると、経正が引っ込めた腕を見つめながら嘆息した。
――――何かで擦り切れ、赤黒く痕が浮かんだ惟盛の腕。地が白かった為に余計に痛々しく見え、経正は今は隠されてしまったそれに苦悶の表情を浮かべた。
「どうして話して下さらなかったのですか」
知らず咎めるような声になってしまい、それにぴくりと惟盛の髪が揺れた。引っ込めた腕をもう一方の腕で抱いて、幾分経正から遠ざかるように身を縮めた。
経正はその様子にはっと目を見張った。
惟盛殿、と控え目に声を掛けると、一瞬悔やむように綺麗な顔を歪ませて、すくっと惟盛は立ち上がった。
「惟盛殿!」
よろけるようにして部屋を出て行こうとする惟盛の後を追い肩に手を掛ける。すると、離して下さい、と惟盛が掻き消えるかのような小さな声で拒絶した。経正が首を振ると、もう一度拒絶の言葉が返る。しかし、泣き出してしまいそうなその声音に、経正は惟盛の肩を引き寄せてそのまま腕の中に閉じ込めた。身じろぎせずにされるがままの惟盛の華奢な体を出来る限り優しく抱き締める。
「私は、貴方の傍に在りたいのです。惟盛殿、それも叶わないのですか?」
「――経正殿…」
はい、と応えて腕を少しだけ緩めると、自分を見上げて来る赤茶の瞳とぶつかった。
「経正殿」
「はい」
「…………経正、ど…の」
はい、と返して、何度も、何度も呼ばれる名前に経正は眦を緩めた。
名前一言に込められた様々な言葉を感じながら、ただ、はい、とだけ応える。
次第に小刻みに震えだした体を撫でながら、そのまま経正は惟盛の気が済むまで辛抱強く待った。――――と、惟盛が経正の胸を押した。
「惟盛殿」
「……申し訳ございませんでした」
もう引き留めてはならない気配を左右に振られた頭で察して、経正は眉を寄せ口を引き結んだ。
尚も覚束なげに歩いていく惟盛に胸が締め付けられた。
怒りと悔しさと哀しさと痛みが一度に襲ってきて、自然と握り締めた拳が震えた。
――――どうして、私はこんなにも無力なのか。
傍に在りたいと、それだけを願い、しかし彼の重荷一つ一緒に背負うことすら出来ずにいる。
拒まれた腕は、彼の優しさだ。
押し込められた言葉も、歪んだ瞳も、何もかも。
守りたいと思っているのに、守られているのは本当は私自身。
「惟盛殿」
廊下に立った惟盛が振り向いた。艶やかな唇が歪んだ。
「もう、私に構わないで下さい」
ふわりと柔らかな髪を翻し惟盛は経正の視界から消えた。
主のいなくなった部屋で立ち竦む経正の周りを、一羽の蝶が舞う。ひらりひらりと舞って、そして主と同じように急に興味を失ったように、それは部屋から外の世界へと出て行き、陽光の中に姿を消した。
書いていて凄い楽しかったです。惟盛ー!惟盛ー!
報われない経正が好きです。本当は矢印ちゃんと向いてるんだけれど、惟盛が立場上手が取れないからずっと向いた状態でストップ。
そして怨霊になって完璧に振られる。よし流石だ経正!!
今度は将臣もセットで書きたい…!父上!