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・ヒノエ→弁慶です。攻めきれない甥っ子とそれに肩透かしを食らっている叔父さんな関係。
・弁九弁前提です。
・弁慶が九郎といる時より若干黒めです。
・ちょと短めですが、それでも宜しければ続きからどぞ。
「ちょっと」
背中に掛けられた声に、部屋で書物を繰っていた弁慶は首だけで振り返った。声の相手とは身体ごと振り返らなければいけないような間柄でもなかったからだ。
「何です、ヒノエ?」
「あんたを姫君がお呼びだよ」
望美さんが?、と問うと、部屋の入口に立った甥が庭へと顎をしゃくった。庭にいる、と言う事らしい。
弁慶は読み散らかしていた書物や竹簡を簡単にまとめた。ふぅ、と嘆息した所で、音はしないが甥が部屋の中へと入ってきたのを気配で知る。
彼は自分の隣に立つと、書の山をしげしげと眺めて深々と息を吐いた。
「ここもあんたの部屋みたいに凄い惨状にする気かい?あんた、また九郎に文句言われるよ」
弁慶は甥をちらりと見遣って、ふふ、と一つ笑った。
京邸の一室。本来弁慶が邸に与えられたものとは異なるこの房室も、既に隅の方にではあるが文献等の山が一山出来上がってしまっていた。
薬草等、薬の研究の為に自室が既に足の踏み場がなくなってしまっていた為、八葉の仕事に使用するから、と無理を言って景時からもう一室借り受けたは良いが、初日からしっかり九郎には釘を刺されてしまっていた。
しかし、釘を刺されたにも関わらず、先見の明があるこの甥には、この部屋が自室の二の舞になるだろう兆候が見て取れたらしい。
「九郎に気付かれる前にどうにかしますよ」
「先に言って置くけど、片付けは手伝わないからな」
間を置かない切り返しに、弁慶は瞬いた。
「手伝ってくれと…僕、言いましたか?」
「どうせ、そう言うつもりだったんだろ?だから先に釘刺してるんだよ」
おや、と弁慶は微笑した。
「心配しなくとも、君に手伝って頂こうなんて微塵も思っていませんよ」
立ち上がった弁慶がおっとりと笑う。ヒノエがそれに小さく舌打ちしたのが聞こえて、擦れ違い様に顔を覗き込んだ。
「それとも、本当は頼って欲しかったんですか?」
首を傾げたその顔が確信犯めいていて、ヒノエは唇を歪ませた。誰があんたなんかに、と鼻で笑うが、拗ねたような声音になってしまって思わず頭を掻いた。目の前の叔父が勝ち誇ったように笑う。
「君が素直に僕におねだりしてくれるのなら、考えますけれど」
微笑む顔が腹が立つ程憎々しくて綺麗で、ヒノエはぎりりと歯軋りして叔父の黒衣の裾を乱暴に引き寄せた。
おや、とよろめいた身体を掴み顔を寄せた。
「報酬があんたなら、やっても良いけど?」
そのまま顔を近付ける。が、寸での所で唇と唇の間に細い指が壁を作った。
「前払いは好きじゃないんです」
人差し指が唇を押した。有無を言わせぬそれにヒノエが距離を取る。素直に退いた甥が歯痒そうに睨むのを口の端で笑い飛ばして、弁慶は目を細めた。
可愛い可愛い甥。どんな手練手管を用いるのか毎度期待しているのだが、何故だか自分に対しては稚拙な手しか使って来ない。いや、使えないのかも知れない。
訳までは分からないが、それはヒノエ本人も自覚してはいるようで、毎回負けては悔しそうにしている。
(本人が感じている程、本気ではないのかも知れない)
無理矢理押し倒すなりなんなり手はあるだろうに。
しかし、まだまだ子供相手に負けてやる程弱くもないので、その手も使えないか、と一人ごちて、弁慶はするりと廊に出た。
それにしても、本気でないなら何だと言うのか。
(遊び?)
遊ばれている?
はたと瞬いて、弁慶は甥を振り返った。
「…ぁんだよ」
不貞腐れ真っ最中の顔が唇を尖らせた。
それににこりと返し、弁慶は心中で、ないない、と首を振った。
あれは本気だ。本気で悔しがっている顔だ。決して短くはない付き合いでの勘がそう告げている。
途端に可笑しくなって弁慶は口許を手で隠した。
男として見る事はないが、何故だか彼の一挙手一投足が気にはなる。成長していく過程に興味があった。これが親心と言うものか?
景時辺りに言ったら苦笑いで否定されそうな事をぼんやり考えてから、弁慶は苦い顔をしている甥にひらひらと手を振って房室を後にした。
本気ではあるんだけれど、なんとなく無意識に甘えを発揮して攻めきれないヒノエくん。そして甥っ子が甘えているという事に気付かない弁慶さん。残念なのはどっちだ(たぶん両方です)
いざ、がば!っと襲われても逃げられる自信が弁慶にはあるので、いつものらりくらりヒノエにちょっかいを掛けますが、ヒノエ自身はその度に「脈本当にないな!」「ちくしょう今に見てろ!」と苛々していたり。自分は本気なのに、相手は遊び半分というのが悔しい。
でも「九郎なんてやめて俺にしなよ」と言えるほど人間出来てる訳でもないので、それも悔しい。
悔しいの二重苦!(笑)
あ、負けた時また悔しい!ってなるから三重苦?
凄いな流石だよヒノエくん!