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・弁慶×九郎のような九郎×弁慶のようなどっちつかずな関係です。
・弁慶が珍しくちょっぴり弱気。
・それでも宜しければ続きからどぞ。
「弁慶さん、今落ち込んでるでしょう?」
ぴしりと鼻先に指を突き付けられて、弁慶はぱちくりと瞬いた。
え?、と首を傾げると、神子がにこりと笑う。同じように微笑むが、流石に急な事に一拍遅れる。
京邸の渡殿。
降って湧いたように珍しく時間が空いた為、手持ち無沙汰で何と無く廊に座り込んで庭を眺めていた弁慶の横に、ちょこんと寄ってきた神子は、今日は何時にも増して元気そうだった
「僕が落ち込んでいると、どうして思ったんですか?」
「否定しないって事は当たってるって事ですね?」
えーと、と思わぬ切り返しに返す言葉が咄嗟に思い浮かばず固まると、神子は勝ち誇ったようににんまりと笑う。
あれやこれやぐるぐると思考を巡らせるが時既に遅し。
切り返しに反応出来なかった時点で自分の方が劣勢だった。
「降参です。本当に、どうして君には分かってしまったのか…。いけない人ですね」
「だって顔に書いてありますから」
「…………顔」
呆然と呟いて、弁慶は両手で自らの顔を覆った。そんなに分かり易い顔をしてましたか?、とくぐもった声を出せば、是と応えが返る。
「でも、他の皆は気付いてないみたい。私と朔くらいかな」
指の隙間からちらりと見返してきた弁慶にくすくすと声を立てる。神子の特技の一つですか?、と問えば、どうでしょうか?、と茶化された。
真剣な顔ではあるが、はっきりと興味津々と彼女の顔にこそ書いてあって、弁慶は一つ嘆息してから両手を離した。
「実は昨日、九郎と言い争いをしてしまいまして…」
「あぁ、そう言えば珍しく険悪そうでしたね」
一拍の後、聞こえてましたか?、とまた顔を覆うと、えぇまぁ、とあっけらかんとした声。
「私と朔と白龍と、それから景時さんも。庭で洗濯物を干してたらたまたま聞こえちゃいまして。珍しく九郎さんより弁慶さんの方が声が荒っぽかったから良く覚えてます」
「――景時も、ですか」
「はい。凄く心配してましたよ」
でしょうね、と嘆息して弁慶は膝を抱えた。
「とても些細な事なんです。九郎が僕との約束を忘れて、景時と出掛けて…」
ふぅ、と息を吐いて、こてんと膝に頭を預けた弁慶を、望美は見遣った。
黒衣の陰から辛うじて窺い見る事の出来る彼の表情は、常とは違い頑是ない子供のようで、望美は思わずその頭に手を伸ばした。まるで子供にするように頭を撫でると、黒衣が擦れて薄い金茶の髪がふわりと指に絡んだ。
「僕が悪いんです。たまたま虫の居所が悪くて、九郎にそのまま当たってしまいました。…………九郎は、ちゃんと謝ってくれたのに」
一晩経って、充分過ぎる程に頭が冷えた。それからは後悔と自責の念ばかりで、まともに今日は九郎と顔を合わせていなかった。
九郎の優しさに甘えた僕。
九郎が、先に謝ってくれたからこそ、甘えて我が儘を言ってしまった。
――――君が勝手をするのなら、僕だって勝手にやらせてもらう。
「久々に二人で加茂川まで行こうと、約束していたんです。僕はとても楽しみにしていたから、九郎に忘れられたのが悲しかったし、凄く腹立たしかった。――だけど、僕との約束は簡単に忘れられてしまうぐらいの事なのかと考えたら、もっと悲しくて腹が立ってしまって……」
くすりと笑った弁慶の頭を、望美はもう一度撫でた。するとほんの少しだけ弁慶が手に擦り寄った。
「――九郎と同じくらい優しいですね、望美さん。でも、九郎よりずっと甘やかし上手だ…」
「そうですか?」
甘えた声をわざと出すから、望美もわざとおどけて見せた。肩を竦めてにんまり笑えば、弁慶も、えぇ、と苦笑した。
「これを機に、望美さんに乗り換えようかな」
「あ」
「え?」
嘆息した弁慶の後方を見て望美が口を開けた。
一拍遅れて振り返ると、渡殿の角に二人の男が立っていた。
焦り顔の景時。そして――――
「九郎」
呆然と、と言うより、どうしたら良いか分からない、と言った風な顔で、九郎が固まっていた。その顔が、じわりじわりと歪んでいく。
「九郎さん、今のは冗談で…」
「そうだよ。ほら、冗談だってさ、九郎。やだなぁ、早とちりしちゃったよ俺ー…」
ね!、となけなしの笑顔を作る景時の苦労虚しく、九郎はぽつりと、邪魔したな、と零して衣を翻した。
九郎、と追い縋った景時の声に、澄んだ声が混じる。
「九郎」
弁慶が静かに九郎へ体の向きを変えた。立ち止まりはしたが、しかし九郎は弁慶の方へ顔すら向けない。
それでも弁慶はもう一度九郎を呼んで、そして深々と頭を下げた。
「昨日の事は、僕が言い過ぎました。――済みませんでした」
「弁慶…っ」
伏せられた頭に九郎が慌てて近寄って肩に手を掛けた。おろおろと、俺こそ、と言ったところで、弁慶が、でも、と顔を上げた。
「君が約束を破った事は、まだ許しませんから」
「は?」
にっこりと笑った弁慶に、その場が一瞬で凍りついた。
今度こそ茫然自失の九郎を置いてするりと立ち上がると、弁慶は躊躇なく歩き出した。やっとのことで望美が、弁慶さん、と引き止めようと声を掛けると、微笑を湛えた弁慶が、ふわりと振り返った。
「今日、九郎が僕に一日付き合ってくれたら、機嫌を直しますけど…どう思いますか?」
ぱちくりと瞬いてから、九郎が怖ず怖ずと景時を見遣る。今日は院御所に行く用事があった。が、俺が代わりに行くから!、と元気に請け負った景時の顔に、こっちは良いから弁慶の機嫌直してきて、という必死の命令が書いてあり、九郎は無言で両手を合わせて頭を下げた。
「別に僕は良いんですけれど」
一部始終を眺めた上でにっこりと微笑んで、またすたすたと歩いていってしまう弁慶に九郎は慌てて追い縋る。
「分かった。付き合う。どうすれば良い?」
ふふ、と笑う弁慶とそれを追いながら、恥ずかしさに顔を赤くしている九郎の背を見送って、後に残された二人は、ふぅ、と汗を拭った。
頑固なんだから、と同時に呟いて、同じ事を思った事に苦笑する。
仲良しが一番だものね、と肩を竦めた景時に、そうですね、と返し、望美はにんまりと笑った。
珍しい(?)弁慶を書きたくて色々詰め合わせてみました。
『落ち込む』と『派手な喧嘩』と『頭を撫でられる』と『土下座する』です。
たまにはどんよりするのも良いかな、と。
ブラックかホワイトかと言われると、うちの弁慶は基本グレーなのでこんな結果に。でもどちらかと言えばホワイト寄り?ブラックではないのは確か。
だから神子が頭撫でても大人しいままです。なんてこった愛玩動物?
カッコいい度は九郎の方が高いのですが、包容力は弁慶の方が上なので成り立つどっちつかずCP。可愛いというスキルは同じくらいなので(笑)
最終的に振り回されるのは軍奉行殿。でもそんなじゃれ合い関係が多分うちではこのまま続くんだろうなぁ。ごめんね景時。